テミィとトーリと言う者は


状況がつかめない。
どうして僕はこうなったのか。
思い返してもよくわからない。目が覚めたらここにいた。…なんか前にもこんな事があった気が。
今いる場所は、天井もない、壁もない、白い空間。真ん中に玉座と大きな人。隣にもう1人、片腕の人。
「っ!」と僕が驚いたのは、俯いて考えていると急に大きな人が近づいてきたから、…いつまで正座すればいいんだろうか。
「……ほう、面白い」
「…え?」
もう一度驚いたのはその言葉ではない、声だ。
「声が似ている、そう思ったのじゃろう?」
「思考が読めるんですか?」
「勘じゃ!」
「……」
目だけしか見えてないがどや顔と言う事がわかる。
「ふーむ、いろいろ遅れたのう、トーリ、簡易説明をば」
「はい」
隣にいた人物が喋った。その声もまた…。
「僕はトーリ。こちらはテミィ様です。
簡易的に言えばここはテミィ様が作り上げた異空間です。
ここにランダムに選ばれた人間を落とし問いかけ、喰らう。いわばアリジゴクのようなものだと思ってください」
「……食べるんですか?」
「食べます。テミィ様は肉食ですので」
「骨まで喰らうぞえ」
「……」
帰りたい。帰り道なんてわからないけど帰りたい。僕はそう強く思った。
「普段ならばそうなるのですが、どうやらテミィ様はあなたに質問があるようです」
「あ、えっと…」と、下がりそうになるその人を引き留めようと質問をしてみる事にした。
「……あなたも肉食ですか?」
「……」
ちらりとテミィ、と呼ばれた大きい人のほうを見る。テミィさんは静かに頷いた。
「僕は果物を食べます」
「…そう、ですか」
「はい」
特に会話も伸びず、引き止めに失敗して下がってしまった。
てことは……。
「では、話すとするかの」
この人と話すんだ。ちょっと怖い。
「まあ、まず気になっているじゃろう。お前様とその姉に似ている、儂とトーリこの声」
「姉さんを知っているのですか?」
「もちろんじゃ、儂は花じゃからのう」
「……花?」
「儂とトーリは受肉したが、声がなくてのう。お前様とその姉の声を借りたわけじゃ。
そうじゃ花と言うのは…核である種、事実を知らぬが支える根、事実を知り干渉も出来る花と言う感じじゃの。
あとトーリ、水をくれ」
「はい」
なんだか話の内容が飛んでいているようで、自由だなこの人。…人、なのかな?と言うかどうやって水飲むんだろう。
「いやはや、まさか根がこの空間にやってくるとは…」
一瞬、テミィさんは僕を驚いたような顔で見てる。と思ったら、顔を近づけてきてマジマジと僕の顔を見ている。
近くで見ると、綺麗だな。宝石も、テミィさん自身も。
「お前様……種じゃな」
「……え?」
「…そうか、種は2つか。この宝石に惹かれもせぬという事はつまり…ふふ、面白いのう。実に面白いのう」
「…すみません、話がよくわからないのですが……」
パチリ、と指パッチンのような音がしたと思ったら、周りの空間が変わった。
どうやったのかはわからないけれど、僕は床で正座からちゃんと椅子に座っているし、目の前にはおいしそうな紅茶と果物が。
あと、変わらず天井はないけど壁はある。
なんだっけこれ、昔の宮廷?とか、中華料理屋さんみたいな……ん?どうやって指パッチンしたんだろう。
「風、飲め」
「え、っと……」
「飲まねば喰らうぞ」
「……」
逃げ場はない、か。
僕は決意を決め、その紅茶を飲み干した。ちょっと熱いけど、おいしい。果実の紅茶かな?甘くて飲みやすい。
でも……。
「心配しているのはヨモツヘグイじゃろう?大丈夫じゃ」
…ヨモツヘグイ?なんだっけそれ。

ああ、そういう話が好きな姉さんに聞いた事がある。たしか黄泉の食べ物を口にしたらもう帰れない、だっけ?
「ははは、それはの、ちーとばかし、お前様の深層の力を引き出すだけじゃぞ」
「ち、力?」
「うむ」
こんな僕に力が…?と思うと、ちょっとカッコイイと感じてしまった。
「種とは、簡単に言えば神に近しいとかなんとかそんな…まあ強いんじゃ」
何だろう、そのアバウトで微妙にわからない感じ。
「…いらないと思ったものは簡単に消せる事が出来ます。たとえそれが人でも」
「お、それじゃそれ」
あ、トーリさんがしゃべった。そのあと、少々申し訳なさそうに会釈した。
喋ってはいけない決まりとかあるのかな。
「して、これが仕上げじゃ」
「え?ちょっ…!」
いきなりトーリさんが僕の事を羽交い締めをにしてきた。片腕ですごい、なんて感心してる場合じゃない。
しかし器用にも、僕の顎をその腕で掴んで、クイっとテミィさんの目の前へと固定する。
目と目が合った時、ふと、テミィさんの額の宝石が鈍く光った気がした。